2015年1月18日日曜日

FXで負った借金について破産はできるのか


  • 結論から言うと破産できる。詳しい理由は書かないが,破産は最後のセーフティーネットであるため。スイスショックで多額の負債を負ってしまった人は,とりあえず弁護士に相談することをお勧めする。破産以外にも解決方法はあるし,少なくとも先の見通しが立って気持ちは楽になるはず。

  • 以下の記述は,相談を受ける同業者向け。

  • そもそもFXは通貨の対象とする先物取引。ただし,期日の繰り延べ(ロールオーバー)が無制限にできるため,投資家の立場からは現物取引と区別がつきづらい。そのため,現物取引だと勘違いをしている人が非常に多い。

  • 国内FXの9割くらいは店頭取引で,投資家はFX業者と一対一で取引をしている(例外は取引所取引のくりっく365。海外FXもほとんど例外なく店頭取引では。)。したがって,トレードで投資家が損をすると,FX業者はもうかる仕組み。しかし株取引のように,どこかに市場が存在していて,FX業者は取引の仲介をしているだけだと誤解をしている人が非常に多い。

  • そもそも為替取引については,株取引のような取引所は存在しない。「東京外国為替市場」という名称の取引所があるわけではない。為替レートについても,株価のように確定的に決まっているわけではなく,銀行やFX業者ごとに若干の食い違いがある。

  • 国内FXは,法令で最大レバレッジを25倍に制限されている。取引単位は1万通貨(1000通貨の業者もある。)で,1枚とか1ロットと呼ばれる。証拠金取引なので空売りも可能。

  • 例えば,証拠金が1000万円であった場合,最大で2億5000万円相当のポジションが持てる。現在のドル円レートは117.59円程度なので,ドル円では最高で212万通貨のポジションが持てることになる。

  • 2億5000万円÷117.59円=212万6031米ドル

  • 上記のドル円レートで米ドルを200万通貨を買った後,ドル円レートが118.59まで上昇した場合,200万円の利益が出る。逆に116.59円に下落した場合,200万円の損失が発生することになる。

  • (118.59円-117.59円)×200万通貨=200万円
    (116.59円-117.59円)×200万通貨=-200万円

  • 上記の例で200万円の損失が発生した場合,証拠金維持率が85パーセントとなり,100パーセントを割ってしまっているので,FX業者から追証の入金を要求されたり,建玉を強制ロスカットされたりする。

  • 必要証拠金:117.59円×200万通貨÷25=940万2000円
    証拠金維持率:(1000万円-200万円)÷940万7200円=0.85

  • 国内FXは,法令で強制ロスカットの仕組みを設けることを義務付けられているので,投資家は証拠金をすべて失う可能性はあっても,証拠金の金額を上回る損失を被ることは原則としてない。

  • しかし,今回のスイスショックのように為替レートの急激な変動が瞬間的に発生した場合,強制ロスカット注文の執行が間に合わず,証拠金がマイナスになってしまうことがごくまれに発生する。

  • 今回のスイスショックは,スイス中央銀行がスイスフラン高を抑制するために設定していた防衛ラインを突然撤廃したので,スイスフランが急騰したため発生した。そのため,スイスフランを売っていた投資家が損失を被ることになった。

  • 例えば,スイスフラン円の為替レートは,スイス中銀の発表直後に116円程度から162円程度まで瞬間的に上昇したとのこと。その後は130円台で推移している。

  • もし,証拠金1000万円の投資家が,116円でスイスフラン円を80万通貨売っていて(レバレッジ9.2倍),スイスショック後に162円で強制ロスカットされた場合,3680万円の損失を被ることになる。もともと証拠金は1000万円だったから,この投資家は2680万円の債務を負ったことになる。この場合の債権者は取引をしているFX業者。

  • (162円-116円)×-80万通貨=-3680万円

  • ネットで見る限り,投資家が負った債務は最高で9000万円くらいで,人数はそれほど多くはない印象。日本のFX投資家でスイスフランの取引をしている人が多くないためだろう。

  • FXは株式などより敷居が高いので,FX投資家のステータスは比較的高いと思われる。しかも,FX初心者がスイスフランに手を出すとは考えにくいので,今回のスイスショックで損失を負ったのはそれなりの経験者(年齢高め,資産あり)が多いのではないか。そうすると,破産よりも個人再生の方がなじむ気がする。

  • なお,海外FX業者の破たんが伝えられているが,スイスショックで投資家が負った債務が多額になりすぎ,その回収がスムーズに行かないと見込まれるため,FX業者の資金繰りがショートしてしまったのでは。国内のFX業者は,顧客からの預り金を信託保全しているので,仮に破たんしたとしても,預けたお金が返ってこないということはないだろう。

  • 私が知る限り,今回のスイスショック騒動に消費者被害的な側面はないはず。