2016年7月14日木曜日

テクニカル分析の本質


  • 芥川龍之介の短編に「竜」というのがあって,そこそこメジャーなんじゃないかと思うけれど。

  • ある法師が,いたずら目的で「この池から3月3日に竜が昇るだろう」という嘘の立札を立てたら,予想以上に噂が広まって当人自身が当惑してしまっていたが,当日になって大勢の見物客が見守っていたところ,本当に池から竜が昇ったという話。

  • 私は以前から相場の本質はこれなんじゃないかと思っている。嘘でもなんでも,多くの人が信じればそれが本当になってしまう…。

  • 例えばこんな感じ。FX界隈では「ごとおび」(5と10がつく日)は円安になるという話をよく聞く。

  • 5と10が付く日はドルの資金需要があるからというのがその理由らしいが,資金需要が理由ならば,為替取引の決済は取引の2営業日後なのだから,円安になるのは「ごとおび」の2営業日前のはずだろう。

  • だから「ごとおび」の円安というのは間違いなんじゃないかと私は思うのだが,それでも統計を取ってみると,実際に「ごとおび」は円安になる傾向があるらしい。

  • これは,「ごとおび」の円安を信じた投資家が,それに期待して円を売るため結果的に円安になるのではないだろうか。相場の世界では,間違った事実であっても,広く信じられるとそれが本当になってしまう…。

  • 「株式投資は美人投票だ」という言い方もよくされる。

  • これは,「自分がよいと思った銘柄を買うのではなく,多数の投資家がよいと思うであろう銘柄を予想して買え」ということだと思うが,ここでも重要とされるのは,実際の良し悪しではなく,多数の投資家がどう思うかだ。

  • 結局のところ,相場というのは万事そういうことなのではないのだろうか。

  • 相場を支配しているのは「客観的な真実」ではなく,多数の投資家がどう思うかという意味での「主観的な真実」である。

  • ならば,テクニカル分析についてもそのような観点から理解すべきだろう。

  • プロの投資家の方で,テクニカル分析にはまったく意味がないとおっしゃる方もいるが,私はそうは思わない。

  • 確かに,黄金比がうんぬんとかフィボナッチ数列がうんぬんなどと言われると,オカルトですかと言いたくなるのだが,オカルトでも何でも多数の投資家が信じれば相場はその通りに動くだろう。

  • ただし,なにかが普遍的な原理がアプリオリに存在しているわけではなく,テクニカル分析は多数の投資家がそれを認識し,それを注目するようになって初めて意味がある。

  • これがテクニカル分析の本質ではないだろうか。「誰も知らない自分だけのテクニカル分析」には何の意味もない。

  • テクニカル分析は,「多数の投資家が売買のポイントだと考えるタイミングを予想するため」に存在しているのであり,どの指標をどのように使うかはその目的から逆算すべきだろう。

  • 分かったような分からないような小難しい理論よりも,誰もが知っているオーソドックスな指標の方がよほど重要だと思う。